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NoSQLを長期運用に耐えうる構成とするベストプラクティス

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「NoSQLは長期運用に不向き」

こう聞くと、多くのエンジニアは「そんなことはない」と答えるでしょう。事実、世界中の大規模サービスがDynamoDBを中核に据えて安定稼働しています。そのスケーラビリティ、パフォーマンス、そしてフルマネージドである手軽さは、現代のアプリケーション開発において絶大な魅力です。

では、なぜこのような挑発的なタイトルを付けたのか。それは、DynamoDBの特性を深く理解せずに「なんとなく」で採用し、長期運用フェーズで「こんなはずではなかった」と頭を抱えるケースが後を絶たないからです。

本記事では、DynamoDBが「ダメなサービス」だと主張したいわけでは決してありません。むしろ、その強力な性能を最大限に引き出すために、長期運用で見えがちになる「罠」や「課題」を令和の視点から再整理し、DynamoDBと末永く付き合っていくための勘所を解説することを目的とします。

1. コストの罠:サイレントに増え続ける請求

DynamoDBのコストモデルは、一見するとシンプルですが、長期運用ではじわじわとボディブローのように効いてきます。

予測不能なリクエスト課金

  • オンデマンド vs プロビジョンド: 開発初期やトラフィックが読めない段階ではオンデマンドモードが非常に便利です。しかし、サービスが成長しトラフィックが増大すると、プロビジョンドモードの方がコスト効率が良くなるタイミングが来ます。この切り替え判断と、適切なキャパシティユニットの計算は、継続的な監視と予測を必要とする職人芸の域に達することがあります。
  • Auto Scalingの過信: プロビジョンドキャパシティのAuto Scalingは強力ですが、急激なスパイクには対応しきれず、スロットリングを引き起こす可能性があります。結局、ある程度のバッファを持たせた設定になりがちで、それが無駄なコストを生むことも少なくありません。

積もり積もるストレージコスト

RDBと比較してGB単価は安価に見えますが、油断は禁物です。TTL(Time to Live)を適切に設定せず、不要になったデータを削除する仕組みがないまま運用を続けると、データは指数関数的に増加していきます。数年後、請求書のストレージ料金の項目を見て愕然とすることになるでしょう。

2. 設計変更の壁:最初の設計がすべて

RDBの柔軟性に慣れていると、DynamoDBの設計思想の違いに戸惑うことになります。特に、長期運用における仕様変更や機能追加は、この壁に直面する大きな要因となります。

パーティションキーは変更できない

DynamoDBのパフォーマンスの根幹をなすのがパーティションキー(PK)です。このPKは、一度テーブルを作成すると二度と変更できません。

  • 初期設計の呪縛: サービスの初期段階で決めたPKが、数年後のアクセスパターンに最適とは限りません。しかし、PKを変更するには、実質的に新しいテーブルを作成し、データをすべて移行するという大掛かりな作業が必要になります。
  • Hot Partition問題: 特定のPKにアクセスが集中する「Hot Partition」は、DynamoDB運用における永遠の課題です。サービスの成長によって特定のユーザーやアイテムに人気が集中した場合、初期のPK設計では捌ききれなくなり、パフォーマンスが著しく劣化します。

GSI(グローバルセカンダリインデックス)は銀の弾丸ではない

「検索パターンが増えたらGSIを追加すればいい」と安易に考えてはいけません。GSIは非常に強力な機能ですが、万能薬ではありません。

  • 追加コスト: GSIは、それ自体がテーブルのようなものであり、独自のプロビジョンドキャパシティとストレージコストが発生します。安易に追加すると、本体テーブルのコストを上回ることもあります。
  • 書き込み性能の低下: GSIを追加すると、本体テーブルへの書き込み時にGSIへの書き込みも発生するため、書き込みキャパシティユニット(WCU)の消費が増え、レイテンシも増加します。

3. クエリの限界:RDBが恋しくなる瞬間

DynamoDBは特定のキーに対する高速な読み書きに特化しています。その裏返しとして、RDBが得意としてきた柔軟なデータ集計や検索は苦手です。

「ちょっとした集計」ができない

「先月のユーザー登録数を日別で集計したい」「カテゴリごとの商品数を知りたい」といった、RDBならGROUP BY一発で終わるような処理が、DynamoDB単体では実行できません。Scanオペレーションで全データを取得し、アプリケーション側で集計するという力技も可能ですが、データ量がGB、TB単位になると非現実的です。

分析基盤との連携は必須

結局のところ、複雑な分析やデータ集計が必要になった場合、DynamoDB Streamsを利用してデータを別のサービス(Amazon OpenSearch Service, Amazon Redshift, Athenaなど)に連携し、そちらで分析するアーキテクチャを組むことが必須となります。これは、初期段階から設計に織り込んでおかないと、後付けでの導入は大きな負債となり得ます。

まとめ:それでもDynamoDBを使いこなすために

ここまでDynamoDBの長期運用における課題を挙げてきましたが、これらはDynamoDBが欠陥品であることを意味するものではありません。むしろ、これらの「クセ」を深く理解し、正しく付き合うことで、そのポテンシャルを最大限に引き出すことができます。

長期運用を成功させるための勘所は以下の通りです。

  1. 徹底的なデータモデリング: アプリケーションのアクセスパターンを洗いざらいリストアップし、それに最適なPK/SK、GSIを設計します。未来のアクセスパターンまで予測することが理想です。
  2. コスト意識を常に持つ: 請求アラートを設定し、定期的にコストの内訳を確認します。TTLの活用や、適切なキャパシティ管理を怠らないようにしましょう。
  3. ライフサイクルを設計する: データは投入するだけでなく、いつかアーカイブされたり削除されたりします。データのライフサイクル全体を初期段階で設計に組み込むことが重要です。
  4. 分析要件を分離する: DynamoDBに複雑なクエリを期待してはいけません。分析要件がある場合は、早期にAthenaやOpenSearchなどとの連携を視野に入れたアーキテクチャを検討しましょう。

DynamoDBは、すべてを解決する銀の弾丸ではありません。その特性を理解し、適切な場所で、適切な設計と思想を持って使うこと。それこそが、令和の時代にDynamoDBと末永く、幸せに付き合っていくための唯一の方法なのです。

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